こんにちは、佐佐木 由美子です。
今後、高齢で働く人の割合は、ますます高まっていきます。
総務省の発表*によれば、2020年の高齢者の就業者数は、2004年以降、17年連続で前年に比べ増加し、906万人と過去最多を更新。「団塊の世代」の高齢化などを背景に、2013年から2016年までは主に65~69歳で増加、2017年以降は「団塊の世代」が70歳となり始めたことなどにより、主に70歳以上で増加しています。
2020年の高齢者の就業率(65歳以上人口に占める就業者の割合)は25.1%となり、9年連続で前年に比べ上昇。年齢階級別にみると、65~69歳は9年連続で上昇し49.6%、70歳以上は4年連続で上昇し17.2%となっています。
*出所:総務省統計局ホームページ
このようにシニアの働き手は増えていますが、若い頃のようにフルタイムで働くのは体力的にも厳しくなるかもしれませんし、65歳からは年金の受給も始まるため、パートタイムで働くスタイルが主流になるでしょう。これまで培ってきた経験やノウハウなどを活かせる仕事は、今後もっと広がっていくものと思います。
政府は高齢者の就労環境の整備を進めていますが、その一つとして65歳以上で働く人に「マルチジョブホルダー制度」を新設。2022年1月1日から始まりましたが、あまりこの制度が知られていないようです。
給付につながる仕組みなので、嘱託やパートなどで複数の仕事をする場合は、ぜひチェックしておきましょう。
雇用保険マルチジョブホルダー制度とは?
雇用されて働く人で、週所定労働時間が20時間以上、かつ、31日以上の雇用見込みがあれば、雇用保険に加入することになります。
雇用保険に加入することのメリットのひとつに、失業手当(正式には基本手当といいます)が受けられることがあります。65歳以上で離職すると、一定要件に該当すれば「高年齢求職者給付金」という名称で一時金としてもらうことができます。
しかし、そもそも雇用保険に入っていなければ、こうした給付金はもらえません。
そこで、複数の事業所で働く65歳以上の人が、そのうち2つの事業所での勤務を合計して一定の要件を満たす場合に、本人からハローワークに申し出ることで、特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができる「マルチジョブホルダー制度」が創設されることになりました。
具体的には、以下の要件をすべて満たすことが必要です。
1.複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
2.2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
3.2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること
加入後の取扱いは通常の雇用保険の被保険者と同様で、任意脱退はできません。
雇用保険に加入後、別の事業所で雇用された場合も、上記の要件を満たさなくなった場合を除き、加入する事業所を任意に切り替えることはできません。
失業した場合の給付は?
マルチ高年齢被保険者であった人が失業した場合、離職日以前1年間に被保険者期間が通算して6か月以上あること等の要件を満たすと、「高年齢求職者給付金」を一時金で受給することができます。
2つの事業所のうち1つの事業所のみを離職した場合でも受給することができます。
ただし、2つの事業所以外の事業所で就労していて、離職していないもう1つの事業所と3つ目の事業所をあわせてマルチ高年齢被保険者の要件を満たす場合は、受給できません。
給付額は、原則として、離職の日以前の6か月に支払われた賃金*の合計を180で割って算出した額(賃金日額)のおよそ5割~8割となる「基本手当日額」の30日分または50日分となります。
*2つの事業所のうち1つの事業所のみを離職した場合は、離職していない事業所の賃金は含めない
マルチ高年齢被保険者の資格取得手続きはどうする?
通常、雇用保険の手続きは、事業主(会社)が行います。
しかし、マルチジョブホルダー制度に関しては、適用を希望する本人が手続きを行う必要があります。
手続きに必要な証明(雇用の事実や所定労働時間など)は、事業主に記載を依頼します。
事業主は、マルチジョブホルダーに対して、必要な証明を行わなければならないことが法令で定められています(もし、協力が得られない場合は、ハローワークから事業主へ確認を行うことも可能なので、ハローワークに相談してみましょう)。
そのうえで、適用を受ける2社分の必要書類を揃えてハローワークに申し出をします。
この手続きについては、電子申請での届出は行っていません。住所または居所を管轄するハローワークへ必要書類を持参して手続きを行います。
なお、この制度は、本人がハローワークに申出を行った日から被保険者となるため、申出日より前に遡れないことに注意が必要です。
まとめ
65歳以上であっても、1つの事業所で週20時間以上働く人は「高年齢被保険者」となるため、会社が手続きを行ってくれます。その方が個人にとっては負担もありませんし、運用もシンプルです。
一長一短はありますが、マルチジョブホルダー制度は、1つの事業所で要件を満たさず、雇用保険に加入できない人に対してセイフティーネットの役割を果たすものです。
ただ、雇用保険のマルチジョブホルダー制度というものがあることを知らなければ、アクションを取ることもできません。
高齢の親や親戚、身の回りにいる知人等がパートの仕事をしている場合に、こうした制度について積極的に伝えてほしいと思います。
また、会社側も65歳以上の高齢者を雇用保険に加入しない労働条件で雇用する場合、マルチジョブホルダー制度について伝え、希望があれば必要な証明を行ってもらえたらと思います。
働く期間が長期化することに伴い、働き方や社会保障関係の制度は今後も見直しが進んでいくでしょう。働く人自身が、こうした新たな動きをアップデートして活用していくことも大切です。