「人生100年時代」と聞いて、あなたはどう感じますか?
本来、長生きできることは喜ばしいことでが、長生きするほど必要になるお金のことを考えて、将来に不安を覚える人は多いのではないでしょうか。
世間では、老後はストック(資産)があればあるほどよい、という意見が大半を占めています。
ストック(資産)とは、貯えてきたお金はもちろんのこと、これまで築き上げてきた人的ネットワークや資格、肩書など、かつて手に入れてきたものすべてを指します。
定年から人生の最期まで15年くらいであれば、かつての肩書で社会的な信用を得つつ、それまでの貯蓄や家族のサポートなどで、十分上手くやってこられたかもしれません。
しかし、人生の長期化に伴って、それが30年あるいはそれ以上となれば、ストックだけではとても賄いきれません。
いくら貯金があったとしても、どんどん目減りしていくのを見れば、心穏やかにはいられないでしょう。
人間関係についても同じです。長く生きていれば、趣味嗜好も変わっていきますし、転居などで仲が良かった人との付き合いが途切れてしまうこともあるでしょう。誰かが寿命を迎える度に、人的資産も小さくなってしまいます。
だからこそ、ストックだけに頼るのではなく、お金や人間関係など、その時々に応じて何かしらの価値を生み出すフローの力が、これからは大事になってくるのです。
働くことは、お金を稼ぐ手段であるばかりではありません。社会的なつながりや健康維持など年を重ねるほど、その意味合いも変化していきます。
人手不足で労働市場は大きく変化している
しかし、「定年を迎えると給与が激減してモチベーションが下がってしまう」という声もよく聞かれます。
そのせいか、定年後に再雇用等で働くことに対して、どちらかというとネガティブな印象を持たれている方も少なくありません。
そうした傾向は、確かにこれまでは強かったといえます。
ところが、人手不足が深刻化し、人材の採用もままならなくなっている中で、中高年の労働市場は、にわかに活気づいています。
実際、定年延長を打ち出す企業や処遇を見直す企業が続々と現れています。
生産年齢人口(15歳~64歳)が減少しているにもかかわらず、労働力人口はむしろ増えているのです。
今50代前半の団塊ジュニア世代が定年を迎える頃には、労働市場も様変わりしていることでしょう。
法制度においても、中高齢者が活躍できる土壌の整備はどんどん進んでいきます。
ですから、これまでを基準に考えるのではなく、「自分自身のフローを生み出す力をどう高めていくか」という視点でアクションにつなげていくことが大切です。
フローの力を高めるために、キャリア寿命を延ばすための学び直しや、市場ニーズにあったキャリアチェンジなどは有効といえるでしょう。
年金を増やすためにできること
そして、最後に頼るものは、やはり年金です。
そういうと、「年金だけでは暮らせない」といわれそうですが、これもやり方次第でアップは見込めます。
年金を増やす方法は、主に次の3つがあります。
- 長く働くこと
- 受け取る時期を遅らせること
- 給与を上げること
このうち、給与を上げるというのは、転職などしない限り、自分の意思だけではそう簡単にできることではないかもしれません。
しかし、長く働くこと、受け取る時期を遅らせることは、自分の意思で選択することができます。
年金は、受け取る時期を遅らせる(=繰下げ受給する)ことで、1か月あたり0.7%加算されます。70歳まで遅らせると42%の加算、75歳まで遅らせると84%の加算になります。
たとえば、65歳から受け取る年金額が14万円だとします。これを70歳まで繰り下げると、19万8800円になります。そして、その額は生涯もらい続けることができるのです。
現状では、60歳定年が主流であって、年金の受給が始まる65歳まで勤労収入を得て、65歳以降は年金とストックしてきた老後資金で生活を賄うという考え方が主流といえるでしょう。
iDeCoや新NISAを活用して、ストックを増やすやり方もあります。何が起きるがわからないのが人生ですから、フローを生み出す力が大事とはいえ、ある程度の老後資金はやはり必要といえます。
自動的にチャージされる年金は強い味方に
ここで、ひとつ提案があります。
フローの力を高めることで、さらにバージョンアップしてみてはどうでしょうか。
たとえば、70歳まで柔軟に働きながら、生活に足りない分は「先に」手持ちのストックである老後資金を切り崩していくのです。ちょっと勇気が要るかもしれませんが、年金を70歳から受け取るようにすることで支給率を42%もアップさせることができます。
厚生年金に加入しながら働けば、70歳まで年金額そのものをアップすることも可能です。
その額を生涯もらい続けられることで、長期的な経済的安定を図ることができます。
ストックは減っていっても、年金は毎月(振込は2か月に一度)自動的にチャージされます。
そうなれば、「ストックを増やさなければならない」というプレッシャーからも解放されるのではないでしょうか。
大事なことは収支のバランスです。収支のバランスに大きな乖離がなければ、それほど心配する必要はありません。
そして、どう働くかということは、生活の質に関わってくる大事なポイントです。
定年前と同じような働き方を続けることもあれば、時短や週休3日など自分のペースに合わせて柔軟にカスタマイズしやすい、というのもシニアワークの特徴といえます。今後は、さらに短時間で働く人への社会保障は充実していくでしょう。
たとえば、週20時間働いて社会保険に加入しつつ、そのほかに個人事業主として興味ある分野で働くことも考えられます(これにはメリットもあります)。
昔と違って、働き方は多様化しており、自分らしい働き方を構築しやすい土壌が整いつつあります。
人生の長期化に対して、漠然と不安に感じたまま過ごすのはもったいないことです。かといって、今というかけがえのない時間を犠牲にして、やみくもにストックを増やす努力をするのも魅力に欠けます。
それよりも、あなた自身にとって最適な人生の出口戦略を考えてみませんか?
答えは、ひとり一人違うはずです。
年金を増やすための方法をはじめ、老後資金の考え方、キャリア寿命を延ばすための学び直しや柔軟な働き方へのシフトなど、出口戦略を実現するための戦術的なノウハウについて、これから書いていきたいと思っています。基本的には公的な制度等で、なるべくお金をかけずに実践できる堅実なノウハウを取り上げていきます。
今後は『人生の出口戦略』シリーズとして、このブログにアップしていきますので、ご関心のある方は引き続きブログをチェックしてください。
定年前後の働き方の概況を知りたい方は、拙著「1日1分読むだけで身につく 定年前後の働き方大全100」もあわせてご覧ください。
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