こんにちは、佐佐木 由美子です。
学生時代に借りた奨学金の返済ができず、自己破産をする若者が近年増えていると聞きます。
日本学生支援機構の「令和2年度 学生生活調査」によると、奨学金を受給している学生の割合は、大学(昼間部)で49.6%、短期大学(昼間部)で56.9%、大学院修士課程で49.5%、大学院博士課程で52.2%となっています。
2人に1人は受給しているわけですから、決して他人事ではありません。
ここで注目したいのが、日本学生支援機構の「奨学金返還支援制度(代理返還)」です。
将来、企業の担い手となる奨学金返還者を応援するための取組みとして、2021年4月からスタートしました。
2023年7月末時点では972社が利用しています。
これは企業が導入するものですが、こうした制度を導入する企業に就職・転職することで、奨学金を借りていた方が支援を受けられるメリットがあります。
同時に、企業にとってもメリットがあると言えます。労使にとってWin-Winと言える制度ですが、いったいどのようなものか、「奨学金返還支援制度(代理返還)」についてお伝えします。
「奨学金返還支援制度」とは?
「奨学金返還支援制度(代理返還)」は、独立行政法人 日本学生支援機構の貸与奨学金(第一種奨学金・第二種奨学金)を受けていた社員に対し、企業が返還額の一部又は全部を機構に直接送金することにより支援する制度です。
かつて社員の奨学金返済を支える方法は、給与に一定額を上乗せ支給する方法が主流でした。この制度では、肩代わりする金額や、月払いか一括払いかなど返還方法は企業側が決められます。
働き手のメリット
この制度を通じて支援を受ける社員にとっては、
・自分に代わって奨学金を返済してもらえる
・支援金が給与課税されることはない
(→給与として支給される場合は課税)
・社会保険料の報酬にも参入されない
(→給与として支給される場合は報酬に参入)
といった点で、とても大きなメリットがあると言えます。
返還期間は最長で20年もあり、返済に苦労することを思えば、実にありがたい制度と言えるでしょう。
企業側のメリット
企業にとっては、当然お金のかかる話なので、導入に際しては慎重にならざるを得ません。が、この制度を利用する(企業が返還額を直接機構に送金する)ことによって、次のようなメリットが挙げられます。
・採用でのアピール度が高まる
・離職予防に効果的
・支援した額を損金算入ができる(法人税の減額)
・賃上げ促進税制の対象になる
・肩代わりしたお金は本人非課税、社会保険料の報酬にも含まれない
・利用企業は機構HPに掲載、大学にも紹介
中小企業の新卒採用、若手採用などに役立つ可能性が考えられます。
導入に際しての留意点
企業が「奨学金返還支援制度(代理返還)」の導入を検討する際は、たとえば以下のような点について検討するとよいでしょう。
・対象者は?(新卒のみ、中途採用含めるか等)
・雇用形態は?
・対象者の基準は?(奨学金返済者全員対象?)
・支援金の支払い方法(月払い、一時金?)
・期間や金額の上限はどうするか? など
こうしたルールを決めて、就業規則に規定することになります。
就業規則の作成に関しては、留意点もあります。
労働基準法では、労働契約を結ぶときに、それに付随して労働契約不履行について違約金の定めをしたり、損害賠償額を予定することは禁止しています(同法第16条)。
たとえば、「〇年以内に退職した場合は支援した金額を全額返還しなければならない」というような内容は問題です。社員の退職の自由を奪うことにもなりますので、気を付けなければなりません。
返済途中における社員の退職やその後の返済について気になるかもしれません。
「代理返還」は、民法上の代位弁済とは異なり、企業が使用人に代わって奨学金を返還しても、使用人に対してその返還額を求めること(求償権の行使)は想定されていません。(機構ホームページより)
まとめ
昨今の人手不足もあり、若手の採用に苦労する企業は大変増加しています。特に、中小・ベンチャー企業において深刻です。
若手人材の採用・定着につなげられる施策の一つとして、「奨学金返還支援制度」を導入することを検討されてみるのも一案と言えるでしょう。
働き手にとっても、こうした制度がある企業に就職・転職するメリットは大きいと言えます。注意点として、もし企業の送金が滞った場合は、社員が残りを返済する義務を負います。
代理返還を実施している(予定含む)企業は、機構のサイトからも確認できます。求人募集時に、制度が導入されているかチェックされてみてはいかがでしょうか。