こんにちは、佐佐 木由美子です。
前回は退職後の健康保険における3つの選択肢についてお伝えしましたが、任意継続被保険者における制度改正についてもぜひ理解しておきたいところです。
意外と大事な改正内容でありながら、実はあまり知られていません。
このエントリでは、任意継続被保険者制度における2つの改正ポイントを解説します。
健康保険の任意継続制度を検討する際、あるいは今すでに任意継続被保険者である方は、ぜひチェックしてください。
健康保険組合の方は要注意!算定方法の変更
任意継続と国民健康保険、いずれかを選択する際にポイントとなるのは保険料です。
健康保険組合における任意継続保険料の算定方法について、2022年1月に健康保険法等の一部改正がありました。
改正ポイントの1つ目は、任意継続保険料の算定方法の変更が健康保険組合の規約によって可能になったことです。
任意継続保険料について、改正前は①「資格喪失時の標準報酬月額」、または②「当該保険者の全被保険者の平均の標準報酬月額」のいずれか低い額に保険料率を乗じた額とされていました。
ところが、改正後は、健康保険組合の規約に定めることにより、②「当該保険者の全被保険者の平均の標準報酬月額」を超え、①「資格喪失時の標準報酬月額」未満の範囲内において規約で定める額を当該健康保険組合の任意継続被保険者の保険料算定の基礎にすることが可能となったのです。
つまり、健康保険組合の実情に応じて、保険料が設定できるようになりました。
ご承知のとおり、任意継続の場合は、これまで労使折半であった保険料が全額自己負担となるため、保険料は単純に2倍になります。
しかし、これまでは組合被保険者の平均の標準報酬月額と比べて低い方となっていたので、給与が高い人は標準報酬月額を下げることができ、実質2倍かかったとしても、国民健康保険料と比べると低くなる傾向にありました。
改正後は、あくまでも規約で定めた場合に限られますが、「当該保険者の全被保険者の平均の標準報酬月額」を超えることができるようになったことから、在職時に加入していた健康保険組合の規約を確認することがとても重要になります。
なお、協会けんぽの場合は、これまでどおりの取り扱いとなります。
任意継続被保険者の標準報酬月額
任意継続被保険者の標準報酬月額については、第四十一条から第四十四条までの規定にかかわらず、次の各号に掲げる額のうちいずれか少ない額をもって、その者の標準報酬月額とする。
一 当該任意継続被保険者が被保険者の資格を喪失したときの標準報酬月額
二 前年(一月から三月までの標準報酬月額については、前々年)の九月三十日における当該任意継続被保険者の属する保険者が管掌する全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額(健康保険組合が当該平均した額の範囲内においてその規約で定めた額があるときは、当該規約で定めた額)を標準報酬月額の基礎となる報酬月額とみなしたときの標準報酬月額
2 保険者が健康保険組合である場合においては、前項の規定にかかわらず、同項第一号に掲げる額が同項第二号に掲げる額を超える任意継続被保険者について、規約で定めるところにより、同項第一号に掲げる額(当該健康保険組合が同項第二号に掲げる額を超え同項第一号に掲げる額未満の範囲内においてその規約で定めた額があるときは、当該規約で定めた額を標準報酬月額の基礎となる報酬月額とみなしたときの標準報酬月額)をその者の標準報酬月額とすることができる。
健康保険法 第47条より
たとえば、某健康保険組合では、「任意継続被保険者の保険料は資格喪失時の標準報酬月額に当組合の保険料率を掛けて算出する」とし、2023年4月1日以降から、保険料の算定方法が変更されます。
このように、新年度以降に任意継続被保険者の保険料の算定方法を見直す健康保険組合が徐々に出てくることが想定されるので、情報をアップデートしておくことが大事になります。
任意継続被保険者の資格喪失事由の追加
改正ポイントの2つ目に、任意継続被保険者の資格喪失事由の追加があります。
改正前は、任意継続被保険者となった日から2年を経過したときや再就職して新たに健康保険等の被保険者資格を取得したとき、また後期高齢者医療の被保険者資格を取得したときなど、一定の資格喪失事由以外の理由では資格を喪失することができませんでした。
そのため、意図的に保険料を納付せずに喪失しようとする人もいたようです。
※「保険料を納付期日までに納付しなかったとき」は喪失事由のひとつ
2022年1月施行の健康保険法等の一部改正により、任意継続被保険者の資格喪失事由に「被保険者からの申出」が追加されたことにより、本人が希望すれば資格を喪失することができるようになりました。
これにより、任意継続期間の途中から国民健康保険に切り替えたり、家族の被扶養者になったりすることも可能になりました。
これは退職後に加入する医療保険制度において、選択の自由度が高まったということです。
たとえば、国民健康保険料は前年1月~12月の所得等で算定されるため、退職後の収入が大きく下がれば、翌年は国民健康保険の保険料が任意継続よりも低額なるケースも考えらえます。そうなれば、任意継続被保険者から国民健康保険に切り替えた方が、受けられるサービスは変わらないまま保険料を下げることができます。
任意継続被保険者の資格喪失を希望する場合は、所定の「資格喪失申出書」により申出を行うことで、申出書が受理された日の属する月の翌月1日に資格を喪失します。
こちらの改正は、健康保険組合ばかりでなく、協会けんぽの任意継続被保険者においても適用されます。
まとめ
任意継続被保険者に関する2つの改正ポイント、ご理解いただけましたか?
こうした仕組みを活用するためには、制度内容や法改正における一定の知識が必要になります。
ちょっと難しく感じられるかもしれませんが、働き方の自由度が高まることは、こうした社会保障制度に関しても理解を深めて、自分なりにカスタマイズしていくことが大事になるということです。
知らないままに「何となく」選んだ結果、損をしていたらもったいないですよね。
このブログでは、働き方や社会保険などにまつわる様々なトピックスを取り上げていますので、ぜひ参考にしてください。