こんにちは、佐佐木 由美子です。
かなり以前から「2025年問題」が取り沙汰されていましたが、雇用の現場においてもそれを実感することが増えてきました。
2025年問題とは、団塊世代が75歳以上となることで、社会構造が大きな分岐点を迎え、雇用や医療、介護、福祉など、さまざまな分野に影響が及ぶことを言います。
働き手にとっても、自分の親や家族が突然、病気やケガで療養が必要となったとき、どうしたらよいか戸惑う人は少なくないと思います。
こうしたときに、活用したいのが「介護休業制度」です。
いざというときに慌てずに対処できるよう、基本的な内容を理解しておきましょう。
介護休業制度が利用できる人とは?
「介護休業制度」とは、家族の介護を行う労働者が、雇用を継続したまま一定期間休業することができる制度です。
これは、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下、「育児・介護休業法」といいます)によって定められており、『対象家族』を介護する男女労働者(日々雇用を除く)が事業主に申し出ることによって利用することができます。
この法律における「介護休業」とは、負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある対象家族を介護するためにする休業をいいます。
ただし、パートタイマーやアルバイトなど、期間を定めて雇用されている人は、申出時点で以下の要件に該当している場合に限られます(同法第11条第1項)。
【期間を定めて雇用されている人の場合】
取得予定日から起算して、93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと。
パートタイマー等であっても、期間の定めのない人の場合は、申出によって利用が可能です。
もうひとつ注意したいのは、労使協定によって介護休業の適用対象外となる労働者が定められている場合。
労使協定とは、事業所ごとに労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者と事業主との書面による協定のことです。
法律では、労使協定の締結があれば、以下の労働者について介護休業の申出を事業主が拒むことを認めています。ですから、労使協定の有無について(下記に該当される場合は)会社に確認してください。
【労使協定を締結している場合に対象外となる労働者】
- 入社1年未満の労働者
- 申出の日から93日以内に雇用期間が終了する労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
事業主は、要件を満たしている労働者からの介護休業申出があったときは、その介護休業申出を拒むことができません(同法第12条第1項)。
もし、「当社は介護休業制度がない」といった回答があったときは、法律の根拠があることを示したうえで、理解を得られるように話し合ってみることが大切です。
介護休業を申し出ることについて、不安を覚える方もいるかもしれません。しかし、介護休業を申し出たこと等を理由として、事業主はその労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁じられています。
(不利益取扱いの禁止)
第十六条 事業主は、労働者が介護休業申出をし、又は介護休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
育児・介護休業法第16条
介護休業の対象となる家族とは?
介護休業の対象者は、2週間以上にわたって常時介護を必要とする対象家族を抱える男女労働者です。
介護休業制度においては、『対象家族』という言葉がよく出てきます。
育児・介護休業法における対象家族とは、配偶者 (事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫を指します。※介護関係の「子」の範囲は、法律上の親子関係がある子(養子含む)
これは法律上の話であって、就業規則等においてもっと対象範囲を広げている場合もあります。ぜひ自社の就業規則(介護休業規程など)をチェックしてみてください。
介護休業はどのくらい取れる?
介護休業は、対象家族1人につき、通算して93日まで3回を上限として分割して取得できます。
最初からまとめて93日申請することもできますし、例えば、30日を2回取り、その後しばらくして33日を取るようなことも可能です。
93日間というと、短いと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。
基本的な考え方としては、介護は長期に及ぶことを踏まえ、介護保険の申請や施設への入所手続きなど介護体制を整えるための準備として活用することが想定されています。
ただ、これもケースバイケースで、状況によっては、家族の最期を看取るために、介護休業を利用されることも考えられます。
会社によっては、介護休業期間を1年間など、法定以上の期間を定めている場合もあります。
介護休業中の給与はどうなる?
介護休業中の給与について、有給とするか無給とするかは、会社によって異なります。就業規則(介護休業規程など)を確認してください。
無給となることは珍しくありませんが、その場合(又は一定以上の給与が減額される場合)には、雇用保険から「介護休業給付金」を申請することもできます。
ひとつ注意したいのは、介護休業中に無給となった場合であっても、社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)の保険料は免除されないということ。
介護休業による社会保険料の免除制度がないためですが、これは時々驚かれることのひとつです。
社会保険に加入している被保険者の方は、休業に入る前に、勤務先とよく相談しましょう。
介護休業はどうやって申請すればいい?
育児・介護休業法において、希望どおりの日から休業するためには、休業開始予定日の2週間前までに、書面により事業主に申し出る必要があります。事業主が適当と認める場合は、電子メール等によることも可能です。
申し出る内容は、以下のとおりです。社内様式がある場合はそれに従い、特にフォーマットが用意されていない場合は、これらの内容を記載した書面を提出するとよいでしょう。
① 申出の年月日
② 労働者の氏名
③ 申出に係る対象家族の氏名及び労働者との続柄
④ 申出に係る対象家族が要介護状態にあること
⑤ 休業を開始しようとする日及び休業を終了しようとする日
⑥ 申出に係る対象家族についてのこれまでの介護休業日数
このとき、会社から対象家族が要介護状態にあること等を証明する書類の提出を求められることがあるかもしれません(提出を制度利用の条件とはできません)。
介護休業の申出をすると、会社から書面等で介護休業期間などについて通知を受け取ることができます。
もし、申出が拒まれる場合には、その理由を記載することとなっていますので、いずれにしても内容はきちんと確認しましょう。
まとめ
仕事を休むというと、「年次有給休暇」を思い浮かべる方は多いと思います。
しかし、長期で仕事を休むとなれば、年次有給休暇の残日数では足りませんし、職場に迷惑がかかると退職を考えてしまう人もいるかもしれません。
そういうときこそ「介護休業制度」があることを思い出してください。介護休業は法律に基づく制度であり、要件を満たせば利用できる権利があります。
たとえ無給であったとしても、労働者の労務提供義務を消滅させる効果があり、対象家族1人につき、最長93日間は休業することができます。
このエントリでは、育児・介護休業法に基づく内容をご紹介しましたが、会社によって介護休業制度の内容が異なる場合があります。制度を利用しようとするときは、必ず自社の就業規則を確認するようにしてください。
さらに、要件を満たせば雇用保険から「介護休業給付金」を申請することもできます。
介護でしばらく仕事を休む必要がある場合は、まず勤務先に事情を説明したうえで相談することをおすすめします。従業員を大事にする会社でれば、介護休業をはじめ、働き方についても配慮してくれるはずです。
介護保険制度の介護サービスや、育児・介護休業法に基づく両立支援制度を組み合わせて活用し、仕事と介護の両立に役立ててください。
※法律は投稿日時点の内容に基づいています。