こんにちは、佐佐木由美子です。
働き方が多様化に伴い、「二以上事業所勤務届」に関する手続きが増えてきていると感じる今日この頃。
一般には聞きなれない書類の名称だと思いますが、簡単にいうと、兼業などで2つ以上の事業所に勤務する人が社会保険にダブル加入する際に必要となる届出書です。
ある日突然、「二以上事業所勤務被保険者標準報酬決定通知書」が会社に届いて、初めて兼業している事実を知った……というケースもあるかもしれません。
今後、役員を兼務したり、副業・兼業によって2つ以上の企業で働く予定のある人などは、いったいどのような場合に、「二以上事業所勤務届」の手続きが必要となるのか確認しておきましょう。
手続きが必要となる人は?
同時に2カ所以上の事業所で勤務する人は、それぞれの事業所で社会保険の要件を満たす場合に、両方の会社で社会保険に加入する必要があります。
「すでに入っているから関係ないのでは?」と思われる方もいるようですが、これは大きな誤解です。
社会保険の加入要件について、ここで確認しておきましょう。
原則として「1週間の所定労働時間」および「1月の所定労働日数」が同一の事業所に使用される通常の労働者と比べて4分の3以上である労働者は、厚生年金保険・健康保険の被保険者となります。
この4分の3基準を満たさない場合であっても、2024年10月以降に勤務先が「特定適用事業所」(厚生年金保険の被保険者数が常時50人超の事業所)に該当する場合、以下の(1)から(4)のすべてに該当すれば、短時間労働者として健康保険・厚生年金保険の加入対象となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
- 2か月を超える雇用見込があること
- 学生でないこと
例えば、次のような働き方をする方が対象になります。
□ A社およびB社で法人の代表者
□ A社で法人の代表者かつ、B社で正社員として勤務する方
□ A社およびB社で正社員・短時間労働者として勤務しそれぞれの会社で加入要件を満たす方
同時に2カ所以上の事業所で社会保険の加入要件を満たした場合、いずれか1つの事業所を「主たる事業所」として選択し、管轄する年金事務所または保険者等を決定する必要が あります。
主たる事業所は、必ずしも報酬の額の高い方となるわけではなく、選択は本人の自由です。
大きな違いは、主たる事業所と選択した会社から保険証が交付されることです。
(ちなみに、2024年12月2日以降は、新たに保険証が発行されることはありません。)
かねてより、法人の代表を務める方が、別の企業を立ち上げたり、経営に参画したりする場合に、「二以上事業所勤務届」の手続きが行われていました。
法人の代表であっても、役員報酬が支給されない場合には社会保険料は徴収できないため、手続きの必要はありません。
起業当初は無報酬としていたものの、事業が軌道にのって役員報酬を支払うこととなり、そのタイミングで2以上事業所勤務届を提出するケースは、実際にあり得る話です。
手続きは被保険者本人が行う
通常、社会保険に関する手続きは被保険者本人に代わって会社が行います。
ところが、この手続きに関しては、基本的に本人が行う手続きとなっています。
協会けんぽに加入する事業所に勤務する場合、被保険者本人から「健康保険・厚生年金保険 被保険者 所属選択・二以上事業所勤務届」を主たる事業所を管轄する年金事務所に提出する必要があります。
一方の事業所が健康保険組合の場合、健康保険組合に所定の様式で「二以上事業所勤務届」を提出する必要があります。
保険料はどうなる?
少々複雑となってくるのが、社会保険料です。
それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額により「標準報酬月額」が決定されます。
この標準報酬月額に厚生年金保険料率、選択した事業所の健康保険料率をかけた保険料額を、それぞれの事業所で受ける報酬月額に基づき按分して決定されます。
その数字が具体的に記載されているのが「二以上事業所勤務被保険者標準報酬決定通知書」です。
これを受けて、会社で給与計算を行う際に、案分された社会保険料を徴収することになります。
この手続きは、通常の社会保険手続きと比べてかなり時間がかかるため、初回の社会保険料徴収に間に合わないケースがほとんどです。
まとめ
短時間労働者における社会保険の適用拡大によって、今後は役員ばかりでなく、短時間正社員やパートタイマーの方でも、二以上事業所勤務届の該当になるケースが増えてくることが想定されます。
ダブルで社会保険に加入することで、保険料の負担は増えますが、病気や出産等の給付金においても合算された標準報酬月額を基準として計算されます(両事業主の証明は必要になります)。
社会保険を両方の会社で加入するケースもある、ということを覚えておいてください。