こんにちは、佐佐木 由美子です。
近年、育児・介護の分野に関する改正は目覚ましいものがあります。
令和7年(2025年)4月と10月に、改正・育児介護休業法が施行されますが、今回の改正は、なかなか複雑と言えます。
雇用環境が整備されていくのは素晴らしいことと思いつつ、実務担当者にとっては、運用面において相当気合?が必要になってくるかもしれません。
細かい内容を含めると、かなり多岐に渡るため、ちょっとずつブログに書いていこうと思っています。
ということで、このエントリでは、「育児を行う労働者の所定外労働の制限」にフォーカスして、お伝えします。
「所定外労働の制限」とは?
「所定外労働の制限」というと、ちょっとカタい響きがしますが、要するに残業を免除する、ということです。
残業がなく定時で帰ることができれば、保育所のお迎えを含めて育児・家事と仕事の両立はしやすくなります。フルタイムで働く人にとって、残業の有無は働き続けるうえで重要なファクターといえるでしょう。
現行の法律では、3歳に満たない子を養育する労働者は、事業主に請求すれば、所定外労働の制限を受けることが可能です。
しかし、残念ながらこれまで実務の現場において、所定外労働の制限を会社に請求するケースは、ほとんど経験がありません。
考えられる理由としては、まず制度の認知度が低いこと。知られていなければ、活用のしようもありません。
知っていたとしても、残業の免除を請求することが難しい(言い出しにくい)環境にあることも大きいといえるでしょう。
「仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」(企業調査)によれば、育児のための所定外労働の制限の利用実績について、 正社員・職員では、「利用者はいない」が63.7%、「利用者がいる」が30.2%、「制度がない」は4.8%となっています。
やはり、利用が進んでいるとは言えない状況です。
一方、育児のための短時間勤務制度の利用実績について、正社員・職員をみると、「利用者がいる」が54.1%で、「利用者はいない」が42.6%、 「制度がない」は2.5%となっています。
圧倒的に、短時間勤務制度の利用率の方が高いことがわかります。
短時間勤務を選択する人たちに、なぜフルタイムで復帰しないのか理由をきくと、「ワンオペで手が回らない」、「フルタイムだと残業もお願いされる」といった声を何度も耳にしました。
「短時間勤務をしているのに、時間どおりに帰れない」という声も。
いずれにしても、残業を避けようと思うと、残業免除の請求くらいでは生ぬるく、思いきって時短にしないとダメだ、ということなのかもしれません。
気になることは、短時間勤務制度を利用しているのは、圧倒的に女性だということです。
育児のための所定外労働の制限の対象が拡大へ
2025年4月1日から、育児・介護休業法の改正によって、育児のための所定外労働の制限の対象が拡大されることになりました。
改正後は、現行の「3歳未満の子」から「小学校就学始期に達するまでの子」を養育する労働者へと拡大されます。
※就業規則(育児・介護休業規程)の改定も必要になります。
残業がなければ、フルタイムで働きたいと思う人は大勢います。
しかも、子の対象年齢が大幅に引き上がるわけですから、社会で広く認知されるようになれば、もっと使い勝手もよくなるはず。
請求自体は紙きれ一枚のものですが、労働者が請求したときは、事業主は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させてはならない、というルールが厳密に設けられています。
そして、事業主は請求どおりに所定外労働の制限を受けることができるように、通常考えられる相当の努力をすべきものであって、単に所定外労働が事業の運営上必要であるとの理由だけで拒むことは許されないものとされています。
ちなみに、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するかどうかは、請求者の所属する事業所を基準として、担当する作業の内容、作業の繁閑、代替要員の配置の難易等諸般の事情を考慮して客観的に判断することとなります。
請求するときのルール
所定外労働の制限の請求は、1回につき、1か月以上1年以内の期間について、開始の日及び終了の日を明らかにして、制限開始予定日の1か月前までにしなければなりません。
(これは法律上のルールであって、会社によってはもっとゆるやかな規定になっている可能性もあります。)
そして、この請求は、何回もすることができます。
仕事や家庭の状況などを鑑みて、請求する時期を工夫することもできるでしょう。
まとめ
一番よいことは、残業ありきの働き方をスタンダードにしないことです。
しかし、人手不足感も高まる中で、難しい事情がある職場もあることでしょう。
仕事と子育てをうまく両立していくために、所定外労働の制限という仕組みがあることを、今回の改正内容とともに広く知られることを願っています。