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『なぜ働いていると本が読めなくなるか』~本が読める働き方をするための考察

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こんにちは、佐佐木 由美子です。

先日、ベストセラーとなっている三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるか』(集英社新書)を読みました。

「そういえば、最近は本が全然読めていないかも…」

そう感じていて、ドキッとされた方もいるかもしれません。

読書史と労働史から読み解く考察が面白く、タイトルに興味がある方はご一読されることをお勧めします。

著者は、『社会の働き方を、全身全霊ではなく「半身」に変えることができたら』働いていても本が読めるようになると述べています。

私が今まさに問題意識を持っていることは、この主題と関連するかもしれません。

現状と同じ働き方のままで、いくらマインドを変えたとしても「半身」になることは、なかなか難しいと思うのです。

では、どうしたらよいのでしょうか。

長い時間働く人はやる気がある?

大事なことは、生産性を高めて労働時間を短縮化することです。

と同時に、そうした働き方を特別なこととして捉えるのではなく、きちんと市民権を与えることです。

ちょっとわかりにくいかもしれませんので、補足しますね。

日本でも労働時間は短くなってきている、と言われています。

しかし、フルタイムでは働く人の労働時間は、長期的にみてほとんど変わっていません。※1

たしかに労働者一人当たりの平均労働時間はこの数十年間で趨勢的に低下していますが、その主な要因は、労働時間の短い非正規雇用者が増加していることによるものです。

日本で正社員としてバリバリと働こうと思うと、フルタイム+残業は当たり前、という感覚はありますよね?

日本以外の社会では、労働すべき職務が雇用契約において明確に規定されますが、日本では雇用の本質は職務ではなく所属にあります。

そのため、評価においては業績よりも情意評価となりやすく、長い時間働く人は「やる気がある」と認められる、わかりやすい指標だったのです。

実際、長時間働く人にしかホットジョブ(社内外での評価が高まる難易度の高い仕事)は回ってきません。

マルチロール・ワーカーの増加

ところが、こうした働き方ができない(したくない)人たちもいます。

子育てをしながら働く人はその典型ですが、介護をしながら働く人、不妊治療をしたい人や更年期症状で悩まれている人、副業・兼業をしたい人、学び直しに力を入れたい人など実にさまざまです。

昨今では医療技術の進歩に加え、働く人の年齢が上がってきたこともあって、がんや生活習慣病で通院しながら働く人が増加しています。最新データの2022年で、仕事を持つ人全体の4割にも達しており、仕事と治療の両立も大きな課題です。

私たちを取り巻く環境が大きく変化していく中で、仕事以外に複数の役割を担う人(マルチロール・ワーカー)はすでに特別ではなく、大勢を占めている可能性があります。

もちろん、仕事以外に本気で打ちこんでみたいことや趣味など、自分の時間を大事にしたい人もいるでしょう。

やりたいこと・すべきことを全部やろうとすれば、いくら時間があっても足りません。

そうして、本を読む余裕さえ失っているのが、働いている人たちの現実なのです。

「長時間は働けません」はわがままではない

正社員は、フルタイム+残業ありの働き方が標準モデルとなっていて、労働時間の長さに価値を与えられています。しかも、柔軟性に乏しい。出世できる人も、ホットジョブにありつける人も、給与が高い人も、猛烈に働くことと引き換えに、メリットを享受できるのです。

しかし、こういう人たちばかりではありません。

きちんとキャリアを積みたい。決して仕事が嫌なわけではなく、むしろやりがいを感じ、この先もキャリアを伸ばしたい。これまでも自己裁量の大きい仕事を任され実績もある。

けれど、長時間は働けない。そういう人は、たくさんいると思うのです。

例えば、「週3日で働きたい」「1日5時間がちょうどいい」「週20時間くらいで働く場所も時間も自由がいい」など。

これは、決してわがままなことではありません。

しかし、こういう働き方をしようと思うと、選択肢が狭まってしまうのです。

そのため、労働時間を短くして柔軟に働こうとすると、パートタイマーやアルバイトなどの非正規雇用となってしまい、時間当たりの賃金も大きく下がってしまいます。

それでも、子育て中の女性など、パートナーが長時間労働であればあるほど、甘んじてそれを受け入れている人たちもいます。というか、これまではそうしてバランスを取っていたともいえます。

一方、「それは絶対に嫌!」という人もいます。

その場合、キャリアを継続するために、疲弊しながらも長時間労働を受け入れようとします。

現行では3歳未満の子を育てる労働者は、育児のための短時間勤務制度を利用することができるため、小さなお子さんがいる場合、一定期間は時短勤務をすることも可能です。

ただ、従来的な働き方の枠組の中で行うことになるため、周囲とのコーディネーションも重要となります。

なかには、マミートラックやダディトラックに陥ってしまう人もいます。

でも、よく考えてみてください。

労働力人口が減少していく中で、これまで労働市場で主役とされてきた無制約で働けるような人材は、どんどん少なくなっていきます。

女性や高齢者、障がいのある人など全員参加型社会を目指すならば、これまでの働き方を大きく見直さなければなりません。

「働き方改革」というと、長時間労働の解消がその目的だと捉えられているところがありますが(狭義の意味ではそれも含まれますが)、本来の目的は多様な人材が活躍できることです。

現在はインフラが整って、ICT(情報通信技術)を活用した場所や時間に縛られない柔軟な働き方ができるようになりました。それこそ、人事、経理、営業、広報、法務、開発など様々な分野で高度な専門性を発揮した仕事がリモートワークで可能です。

短時間で付加価値の高い仕事ができるスマートワーカーを、短時間社員として月給制で雇用する求人は、男女問わず高いニーズがあるはずです。

入社当初から、「週3日勤務」「1日4時間勤務」など短時間に加えてフレックスタイム制やリモートワークを組み合わせるなど、仕事の価値に見合った給与水準で、評価も時短勤務であることが不利にならないように配慮する必要があります。

そうした新たな働き方が増えていけば、生活のゆとりと経済とがうまく調和できます。

雇用に限らず、フリーランスなど業務委託で働くことも可能でしょう。

例えば、海外転勤のパートナーに同行して仕事を辞めざるを得ない人が、これまでのキャリアを生かしてリモートで働くケースなど。フルタイムでは働けないものの、週3日程度ならOKという人もいるはずです。越境ワーカーも、今や珍しいことではありません。

短時間で付加価値の高い仕事ができるスマートワーカーを、副業・兼業人材として受け入れたい企業も今後は増えていくのではないでしょうか?

欲しいのは短時間で高い付加価値を上げる優秀な人材です。そうであればなおさら、時給制のアルバイトで、というわけにはいかないでしょう。

これからは、人材もシェアする時代です。

副業人材でなくとも、発想は同じです。

今のところ、柔軟に短時間正社員として働く人は、これまでの実績と能力・専門性を武器に、会社に交渉して認められたケースが多いといえるでしょう。(雇用によらない場合は、一部のフリーランス・個人事業主など)

ただ、新規の求人案件では、付加価値の高い仕事ができるプロフェッショナル系短時間社員はそれほど見られません。

一般には、育児や介護など一定の制約がある人のみ、期間限定で短時間勤務は可、という感じではないでしょうか。

働き手が求めるニーズが多様化している点にも留意が必要です。

さらに今後は、働き手も高齢化していきます。

定年後に再雇用されて働く人は多いですが、70歳近くになって通勤ラッシュにもまれてフルタイムで働く、というのはいくら元気とはいっても、体力的にも厳しくなってくるのではないでしょうか。

人生に残された時間を仕事以外の有意義な経験に使いたい、と考える人も当然いるはずです。


長い時間働くことに価値があるのではありません。

時間当たりの生産性を高めることが大事なのです。

きっと頭の中では「そうだ」と思っている人は多いはず。

にもかかわらず、「労働時間を短くしたい」というと、やる気がないと思われてしまいがちなところも、従来の価値観に引きずられています。

この意識を改革していくこと、受け皿となる働き方を増やしていくことが重要です。

長時間労働ありきの正社員か、短時間労働ならばパートタイマーの二択しかない、というのでは、これからの時代において柔軟性に欠けていると言わざるを得ません。

組織内に短時間かつ柔軟に働くことができるスマートワーカーが増えることで、フルタイム勤務者の労働時間も減少し、組織全体の生産性も向上する波及効果が期待できます。

個人が自由に使える可処分時間が増えれば、ライフも充実していくのはないでしょうか。

※1 「労働時間の経済分析: 超高齢社会の働き方を展望する」山本勲・黒田祥子著

執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、文筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

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