定年前後の働き方大全100

発売中

詳細はこちら
働き方

女性活躍推進における情報公表がもたらす効果とは

働き方

こんにちは、佐佐木 由美子です。

2016年に女性活躍推進法が施行されて以降、女性管理職比率が高まっていくことを期待していましたが、今のところ目覚ましい成果は見られません。

一方で、女性活躍推進法で101人以上の事業主に義務付けられている行動計画の策定と女性活躍に関する情報公表によって、ポジティブな効果も表れています。

企業の女性活躍推進に、どのような影響を与えているのでしょうか。

管理職に占める女性の割合は?

まず、7月末日に公表された「令和5年度雇用均等基本調査」を見てみましょう。

課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は、12.7%と前年度から変わっていません。

それぞれの役職に占める女性の割合は、役員では20.9%、部長相当職では7.9%、課長相当職では12.0%、係長相当職では19.5%となっており、係長相当職での上昇が見られます。

役職別女性管理職等割合の推移(企業規模 10 人以上)

出所:「令和5年度雇用均等基本調査」(企業調査)厚生労働省

長期的には緩やかな上昇は見られますが、国際比較でみると、依然その水準は低いことがわかります。

出所:「雇用の分野における女性活躍推進等に関する参考資料」厚生労働省

女性活躍推進法の動向

女性の個性と能力が十分に発揮できる社会を実現するため、国、地方公共団体、民間事業主の各主体において女性の活躍推進に関する責務等を定めた女性活躍推進法が2016年4月から施行されました。

この法律は10年間の時限立法。そこで、雇用の分野における女性活躍推進等に関する現状や論点を整理し、その方向性について検討を行うために、今年に入ってから厚生労働省において有識者による「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」が開かれています。

検討会の報告書案にも取り上げている「女性活躍に関する調査」報告書(令和5年度)では、女性活躍推進法の浸透状況などを確認することができます。女性管理職比率に関する興味深い結果などもありました。

メモ

女性活躍推進法では、301人以上の労働者を常時雇用する事業主に対して女性の活躍を推進するための「一般事業主行動計画」の策定・届出及び情報公表を義務化。2022年4月の改正・女性活躍推進法によって、101人以上300人以下の事業主にも行動計画の策定・届出と情報公表が義務づけられました。300人以上規模で約93%が策定している一方、義務化されていない30~99人規模では約15%にとどまっています。

情報公表と女性管理職比率への影響

「女性活躍に関する調査」によると、女性活躍推進に関する情報公表項目数が多いほど女性管理職比率が3年前と比較して高くなっている傾向がみられます。

情報公表項目数と女性管理職比率の変化(行動計画策定企業のみ)

具体的に、「300 人以上」の結果から確認すると、情報公表項目数が多い企業ほど係長相当職と課長相当職の女性比率が高くなっていることがわかります。

しかし、「100~299 人」と「30~99 人」の企業においては上記のようなはっきりとした関連は少し読み取りにくくなっています。

大企業ほど明確ではないものの、情報公表項目数が多いほど、少なくとも係長相当職の女性比率は高まったと言えそうです。

全般的に、課長相当職や部長相当職では、情報公表項目数が多いからといって女性管理職比率が高まっているわけではありません。

上級管理職の割合をどう高めていくか、というのは大きな課題です。

情報公表のプラス影響

加えて、情報公表項目数の多さと企業全体への影響の関係を見ると、

300 人以上の企業

「職場が活性化した」、「採用で人材が集まるようになった」

100~299 人の企業

「女性活躍に向けた社内の意思統一ができた」、「職場が活性化した」、「残業削減が進んだ」「仕事の進め方が効率的になった」

30~99 人の企業

「女性活躍に向けた社内の意思統一ができた」、「職場が活性化した」、「残業削減が進んだ」、「仕事の進め方が効率的になった」、「離職者が減った」、「採用で人材が集まるようになった」

といった項目で正の相関がみられます。

つまり、女性活躍推進法に基づく行動計画の策定及び情報公表は、採用における人材確保をはじめ、職場の活性化や残業削減、仕事の効率化など、ポジティブな効果をもたらしていることがわかります。

情報公表に際しては、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」を活用している企業が多く、101 人以上企業のうち50.8%の企業が、301 人以上企業に限ると 78.4%の企業が活用しています(2024年3月31日時点)。

投資家も注目する女性活躍情報

内閣府「ジェンダー投資に関する調査研究」(令和4年度)によると、投資判断における女性活躍情報の活用状況を機関投資家等に尋ねたところ、「全てにおいて活用」が 8.1%、「一部で活用」が 57.3%と約 3分の 2 の機関投資家等が女性活躍情報を活用していることが明らかになっています。

女性活躍情報を活用する理由として、「企業の業績に長期的には影響がある」が 75.3%、「企業の優秀な人材確保につながる」が 46.9%、「社会全体として女性活躍推進に取り組む必要があると考える」が 44.4%となっています。

なかでも活用する女性活躍情報は、女性の役員・管理職比率であり、女性活躍の指標として重要視していることがうかがえます。

まとめ

現行の女性活躍推進法では、労働者 301 人以上の事業主は「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」から「男女の賃金の差異」を必ず、それ以外から 1つ以上、「職業生活と家庭生活との両立」から 1つ以上(結果最低3つ以上)、労働者が101人以上 300人以下の事業主は、どれでも1つ以上の項目の公表が必要となっています(それ以下の規模の事業主に公表義務はありません)。

そして、女性の管理職比率は選択項目のひとつになっていますが、義務ではありません。

2022年7月の改正において、301人以上の事業主には「男女賃金の差異」の公表が義務化されたのは記憶に新しいところですが、格差を是正していくためには、一定規模以上の企業に情報公表を義務化していくことは重要だといえるでしょう。

有識者会議による報告書案では、企業の実情を踏まえつつ、女性管理職の割合を開示必須項目とすることが適当だとし、今後は労働政策審議会においても具体策が議論されることになります。

各社における女性活躍推進の浸透状況はそれぞれ異なりますが、求職者をはじめ投資家からの注目度や社会的な目線を鑑みれば、積極的な情報公表は有効といえるでしょう。

求職者にとっても、情報公表の項目が多ければ多いほど、気になる企業の内情に迫れるわけですから、こうした情報は大いに参考になります。

執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、文筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

ワークスタイル・ナビをフォローする
シェアする
ワークスタイル・ナビをフォローする
佐佐木 由美子のワークスタイル・ナビ
タイトルとURLをコピーしました