こんにちは、佐佐木 由美子です。
先月、葉山にある加地邸を訪ねました。
お目当ては、葉山の自然と融合した美しい建築物をじっくりと鑑賞すること。
加地邸は、巨匠フランク・ロイド・ライト(1867‐1959)の薫陶を受けた愛弟子・遠藤新(1889‐1951)の設計により1928年に竣工した住宅。国登録有形文化にも指定されています。
まるでライトが設計したのではないか?と思わせるほど、随所に師の意匠が色濃く反映されています。
当時のモダニズム建築の粋を凝らし、100年近く経っても色褪せることのない奇跡のような建築物。
今回は、加地邸の魅力についてお伝えします。
遠藤新の建築哲学
都心から約1時間。海と山、豊かな自然が素晴らしい景観を織りなす神奈川県葉山町。
一色海岸からほど近い小高い丘に佇む邸宅が、今回の舞台である加地邸です。
近代建築の三大巨匠のひとりといわれる、フランク・ロイド・ライトに師事した遠藤新は、まるでライトの分身であるかのように、プレーリースタイル(草原様式)の別荘を設計しました。
遠藤新は、旧帝国ホテル本館をはじめ、ライトと共に様々な建築の設計に携わった建築家。
旧帝国ホテルも、ライトが去った後を引き継いで完成させ、同時期に設計された加地邸も帝国ホテルをどこか彷彿とさせる意匠が散りばめられています。
そこから「小さな帝国ホテル」との異名も。
実際、外観を一目見てわかるように、幾何学模様のように複雑で美しい重なりを見せる大谷石が採用されています。
エントランスの右手に広がる吹き抜けのリビングルームは解放感があります。部屋の中央には暖炉があり、レトロモダンな雰囲気。
室内は随所に三角形と六角形の幾何学デザインが取り入れられ、サンルームも六角形の形をしています。六角形のモチーフは、蜂の巣や雪の結晶など自然界に存在する造形から生まれたと言われています。
この日はあいにくの雨模様でしたが、サンルームから臨む美しい庭の緑、そして小さな池に咲く蓮の花が印象的でした。
ライトのように、家具も遠藤新が加地邸のためにデザインしたもの。
加地邸では、建築をはじめ家具、照明器具に至るまで、遠藤新が掲げた建築哲学「全一」が随所に体感できます。
この邸宅で一番の眺望を楽しめるのは、三面の開口を持つ展望室。とても心地よい空間です。
かつて、目の前には牧場が広がっていたそう。遠くには相模湾を臨み、どれほど美しい眺望が楽しめたことでしょう。
現在、加地邸は改修され一棟貸しの宿泊施設として宿泊可能。通常は宿泊者しか見ることができない館内をくまなく鑑賞できる建築見学ツアーが時折実施されています。
フランク・ロイド・ライトの薫陶を受けた建築家・遠藤新。彼の掲げる全一という建築哲学を体感できる貴重な機会でした。
アートを巡るエッセイ