こんにちは、佐佐木 由美子です。
日頃から働き方に関する調査研究等について目を通していますが、ちょっと気になる内容があったのでシェアしたいと思います。
それは、パーソル総合研究所が生活者の生の声をリアルタイムに分析する「はたらくソーシャル・リスニング」プロジェクト。
「はたらく」に関する旬のトピックスについて、各種SNS・ブログ・掲示板・レビューサイトなど、日本国内10万のソーシャルメディアより取得した投稿データを定期的に分析しているもので、労働市場全体の動向理解に役立てることができます。
このエントリでは、「はたらくソーシャル・リスニング(24年4月)」の結果を取り上げ、個人的に注目した言葉をピックアップします。
「ガラスの崖」と「ガラスの天井」
では早速、「はたらくソーシャル・リスニング(24年4月)」における『2022年度~2023年度増加率の上位ワード』を見てみましょう。
下表にある通り、最も上昇したのが「ガラスの崖」という言葉です。
「ガラスの崖」は初耳でも、「ガラスの天井」は、おそらく聞いたことはあるのではないでしょうか。
「ガラスの天井」とは、資質・実績面において有能な人物であるにも関わらず、性別などを理由に一定の職位以上には昇進させようとしない組織内の障壁を指す言葉として知られています。
ガラスであるのは「目では見えない障壁に阻まれている」ことからの表現。
現在は、女性ばかりでなく、人種などマイノリティの地位向上を妨げる慣行に対しても象徴的に用いられています。
「ガラスの天井は打ち破れなかった。でもいつか誰かが達成するでしょう。思っているよりずっと早く」
ヒラリー・クリントン
2016年、ヒラリー・クリントン元米国務長官がこうした言葉で米大統領選の敗北宣言をしたのを覚えている人もいるかもしれません。
一方、「ガラスの崖」とは、低迷する企業において、起死回生の切り札として女性をトップなど重要役職に登用する傾向をいいます。
つまり、失敗するリスクの高い危機的状況において、女性が要職にあてがわれやすい傾向にあるということです。
うまくいけば、「女性活躍の成功例」など取り上げられ、注目されるかもしれません。
しかし、目に見える成果を上げられなければ、「これだから女性には任せられない」など偏見につながるおそれもあります。
「ガラスの崖」は、英国エクセター大学の教授であるミシェル・ライアンとアレックス・ハスラムによって造られた用語。二人はその研究において、女性を取締役会に任命した企業は他の企業に比べて過去5か月間一貫して業績が悪かったことなど明らかにしています(この研究自体は20年前に発表されたもの)。
ちなみに、「ガラスの崖」という言葉は、2023年6月の日本経済新聞においても「令和なコトバ」に女性登用が立たされる危機として取り上げています。
「マイクロアグレッション」とは?
『2022年度~2023年度増加率の上位ワード』に、話題を戻しましょう。
「ガラスの崖」にも関連して、気になったのが20位にランクインした「マイクロアグレッション」という言葉です。
直訳すると、小さな攻撃性という意味ですが、女性差別の文脈においては、無自覚に日々の言葉や行動で相手を傷つけてしまう行為を意味します。
問題なのは、否定的な言動をしているという意識は全くなく、発言している本人に悪気はないということでしょう。
たとえば、
「女性なのに部長とはすごいですね」
「男性なのにそんなに育休を取って大丈夫?」
「高齢者にITは無理でしょう」
「障がい者だから営業はお願いしません」
など。女性ばかりでなく、様々な例が挙げられます。
そうした発言が管理職やリーダーの場合、組織内での影響は大きいといえます。配慮のつもりの言動がかえって相手を傷つけてしまうこともあり得るのです。
言動の裏には、無意識に抱いているジェンダー観やマイノリティに対する固定観念などがあるといわれています。
言葉は、暖かい毛布のように優しく人の心を包んでくれることもあれば、鋭い矢のように一瞬で相手の心を突き刺してしまうこともあるもの。
日頃から、相手に対する想像力をもってコミュニケーションを取ることの大切さについて考えさせられます。
おわりに
近年、人的資本経営が注目され、大企業を中心に人的資本開示が進められています。
なかでも開示が義務化された男女賃金格差については、遅々として縮小しない状況にあります。こうした中で、女性活躍推進と関連する言葉が関心をもたらしているのかもしれません。
コロナ禍で停滞していた社会経済状況が動き出し、難しい局面に各企業が晒されているということもあるでしょう。
個人的には「ガラスの〇〇」という言葉のない世界になったら、どんなに素晴らしいだろうと思います。
余談ながら、この調査結果においては、「定年後再雇用」や「65歳定年制」などシニア雇用関連のワードが多くランクインしていました。
昨年末に「定年前後の働き方大全100」を上梓した身としては、労働市場の全体観としてシニア雇用が注目されている点にも着目しています。