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ビジネスで交渉上手になるためのファーストステップ

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こんにちは、佐佐木 由美子です。

働く女性から職場での悩みを聞く中で、大きな課題だと感じるのは、うまく相手に対して自分の気持ちを伝えられないこと……一言でいうと「交渉を避けてしまう」ということです。

うまく交渉ができれば、昇進や昇給、やりたい仕事に就けるなど、チャンスが広がる可能性はかなりあるはず。

本当は思っていることがたくさんあるのに、言えない。つい我慢してしまう。だからモヤモヤする……

なぜそうなってしまうのでしょう?

このエントリでは、交渉と聞いて身構えてしまうあなたに、交渉上手になるためのファーストステップについてお伝えします。

無意識のジェンダー規範

女性は小さい頃から、「他人を思いやりなさい」「おしとやかにしなさい」「謙虚でいなさい」といったジェンダー規範を叩き込まれて育ちます。家事や子育ては女性の役割と思ってしまうのも、性別に基づいたジェンダー規範によって無意識に縛られているからです。

「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」

これは、フランスの哲学者・作家であるシモーヌ・ド・ボーヴォワールが、1949年の著作『第二の性』で書いた有名な言葉です。

人がその社会に相応しい考えや行動を身に着けていくことを「社会化」と言いますが、私たちは無意識にジェンダー規範を刷り込まれ、「女になって」いくのです。

そのため「私はこれが欲しい」と求めることは、我がままではないかと思えてしまい、主張することをためらってしまいがちです。

勇気を出して主張しても、侮辱されたり、能力を低く見られてしまったり、自己主張が過ぎると避けられてしまったりして、様々な意味での「制裁」を受けることは珍しくありません。

自分自身の苦い経験があったり、制裁を受けた女性を目撃したりすればなおさら、求めることを躊躇してしまうことでしょう。

そのため、社会で上手くやっていくための処世術として、女性は制裁を受けないようにジェンダー規範に合わせようとし、それが知らず知らずのうちに定着してしまったとも考えられます。

交渉とは女性にとって不安や恐怖を感じるものであり、できるならば避けて通りたいという心理状態に陥ってしまうことは、むしろ自然なことなのかもしれません。

それよりは、「真面目にやっていれば、いつか上司や同僚が認めてくれるだろう」と思った方が気持ちは穏やかになれます。

もしかしたら、あなたは誰かが認めてくれるのを待っていませんか?

でも、待っているだけではダメなんです。

コントロールの所在は外ではなく「内」に、つまり、あなた自身にあります。

欲しいものを欲しいといえないのは、私たちが無意識のジェンダー規範に縛られているから。まず、このことに気づくことが大切です。

両者Win-Winの統合的交渉術

交渉というと、どちらかが勝って、どちらかが負ける、という図式を思い描く人は多いかもしれません。自分の利益が相手にとっては損になるために、衝突が生じると思い込んでいます。

ひとつのパイを取り合う、いわゆる「固定パイの幻想」だけが交渉ではありません。これは「分配型交渉」と呼ばれるものです。

一方、お互いが協調して交渉すると、自分側に有利になるように交渉するよりも、良い結果を生み出すことがあります。

交渉で扱われる問題は、一つだけでなく実は複数あることは珍しくありません。交渉者はそれぞれの優先順位を持っており、自分にとって価値の低いものと、価値の高いものを交換することで、双方に望ましい結果をもたらす可能性があります。

例えば、AさんとBさんが、料理でそれぞれ「柚子」を使う必要が生じたとしましょう。しかし、柚子は一つしかありません。

通常であれば、一つの柚子をめぐってどちらのものにするか争うことになります。

しかし、情報を共有してお互いに求めるものがわかれば、双方に満足できる解決策を導く出すこともできます。

この例で、Aさんは香りづけのために柚子の皮を必要としていました。一方、Bさんはドレッシングに使用するために、果汁を必要としていました。それぞれの利益について、お互いが理解できたことで、Aさんは柚子の皮をもらい、Bさんには柚子の果実を得ることで、Win-Winになることができた、というわけです。

一つの柚子を手に入れるために、相手を打ち負かそうと必死になれば競争が生じてしまいますが、一つの柚子を両者が手に入れるという協調的なアプローチもあり得ると知っていれば、交渉のやり方も変わってきます。

こうしたWin-Winの交渉方法を「統合的交渉」と言います。このやり方では、相手に質問をし、耳を傾け、情報を共有し、双方の要求を満足させるような解決を見出そうとする点に特徴があります。

自分の利益だけを優先させるためだけに求めようとすれば、ためらってしまうことはあるかもしれませんが、相手にとっても利益になると思えば、交渉に対して違った見方ができるのではないでしょうか。

例えば会社の上司に、やりたい仕事や待遇面などについてアプローチする際も、私がおすすめしているのは、そのことが会社や従業員にとって良い結果をもたらすことを前面に出すことです。

「従業員にとって良い」というのも、それが生産性の向上につながり、会社の利益につながる、といった会社視点で交渉することがポイントで、こうするとかなり話も聞き入れてもらいやすくなります。

自分のためと思うとためらってしまうことでも、みんなのため、会社のためと思えば、「よし!」と勇気が出せるのではないでしょうか。

もっと求めていいのです。

ただ気づいてくれるのを、認めてくれるのを待っているのではなく、しなやかな交渉術を身に着けて、あなたが望む未来を引き寄せていきませんか。

参考文献:「そのひとことが言えたら… 働く女性のための統合的交渉術」

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執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、文筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

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