こんにちは、佐佐木 由美子です。
パナソニック汐留美術館で開催中の『フランク・ロイド・ライト―世界を結ぶ建築』展を鑑賞してきました。
アメリカ近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライト(1867‐1959)。
実際の建築物を体感するのが一番と思いつつ、あれだけの作品を手掛けたライトの神髄に迫れるのではないか?という期待もあり、足を運びました。
展覧会の構成と特色
本展は、帝国ホテルを基軸に、多様な文化と交流し常に先駆的な活動を展開したライトの姿を明らかにするもの。アメリカ中西部からラテンアメリカ、ヨーロッパ、日本まで、ライトが経験した様々な風土と文化が取り入れられたことがわかる建築ドローイングや図面の数々が展示されています。
会場は、以下の全7章で構成されています。
1.モダン誕生 シカゴ―東京、浮世絵的世界観
2.『輝ける眉』からの眺望
3.進歩主義教育の環境をつくる
4.交差する世界に建つ帝国ホテル
5.ミクロ/マクロのダイナミックな振幅
6.上昇する建築と環境の向上
7.多様な文化との邂逅
会場では建築ドローイングと歌川広重の浮世絵がともに展示されており、それらを見比べることで、ライトのドローイングに浮世絵から影響を受けていることが感じられます。
ライトは建築だけではなく、そこで使用される家具や食器のデザインも行っています。
「家具の形状は、全体の中で意図され、かつ楽しまなければいけない」という言葉の通り、機能性に加えて、空間全体に馴染む質感の家具を提唱。
帝国ホテル二代目本館で使用されていた椅子や食器、窓ガラスなども併せて展示されています。
また、ライトが提言していた「ユーソニアン住宅」の一部が会場内で再現されています。
ユーソニアン住宅とは、一般的な家庭のために手頃な価格で設計されたコンパクトでありながら温かみの感じられる住宅。木の壁とオープンの棚が装飾されていて、近くには暖炉スペースも。
個人的に興味深かったのは、ライトの建築が進歩的な教育理論の実践として生かされていたということ。
ホームスクールや幼稚園ばかりか、自宅にはプレイルームが増築され、妻のキャサリン・トビンが近所の子供たちのためのホームスクールを開いていたことも初めて知りました。
また、発注者の多くが女性であったということも、この時代にあって特筆すべきことかもしれません。
教育者やフェミニストなどがそれぞれの理論と実践の場としてライトの建築を所望していたこと、さらにライトのスタジオでシニア・デザイナーを務めたマリオン・マホニーなど、仕事仲間としても女性が活躍していたのです。
愛の逃避行などを含め、きっと自分に正直で精神性の自由な人だったのでしょう。
ライトの作品に表れている先進性は、建築そのもののみならず、彼の思想も大いに関係していたことが理解できます。
なお、帝国ホテル二代目本館は、愛知県犬山市にある「博物館明治村」に一部移築保存されています。
以前に移築保存されている帝国ホテルを見るべく、明治村にも足を運びました(素晴らしかったです)。移築保存されているのは、客室棟の中央玄関部分で、建物前面にあった池も再現されています。
建築はもちろんのこと、芸術、デザイン、造園、都市計画、著述、教育など世界を横断して活躍したライトの幅広い視野と知性を感じられる展覧会。
『フランク・ロイド・ライト―世界を結ぶ建築』は、パナソニック汐留美術館で2024年3月10日まで開催、その後は青森県立美術館で3月20日〜5月12日まで開催予定。
グッゲンハイム美術館
ニューヨーク・マンハッタンにある「グッゲンハイム美術館」もロイドの作品として知られています。
若かりし頃、グッゲンハイム美術館を訪れて、その進取性と「有機的なデザイン」の美しさに言葉を失うほど魅了されました。
美術館建築は、アートを展示するための単なる箱ではなく、建築空間のデザインに意味があるということ。そして、建築自体が鑑賞の対象であるということを、グッゲンハイム美術館から学んだといっても過言ではありません。
アートと建築の融合、それを楽しむための美術館鑑賞というコンセプトが私の中に定着した原点は、ロイドの手がけたグッゲンハイム美術館にあったのかもしれません。
あのときの心が躍るようなときめきと感動を懐かしく思い出しました。
グッゲンハイム美術館を含む8作品が、2019年に世界文化遺産に登録されています(建築分野での登録は米国初)。
アートを巡るエッセイ