こんにちは、佐佐木 由美子です。
全世代型社会保障構築本部が開催され、2023年9月27日に「年収の壁・支援強化パッケージ」が決定、概要が発表されました。
すでに、こども未来戦略方針(2023年6月13日閣議決定)において、「いわゆる106万円・130万円の壁を意識せずに働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引き上げに引き続き取り組む」と意気込みを表明していましたが、それが形となったと言えます。
このエントリでは、支援強化パッケージの概要とポイントについてお伝えします。
そもそも年収の壁とは?
配偶者の扶養に入りパートなどで働く人が、一定の年収額を超えると扶養を外れて年金や医療の社会保険料の負担が生じ、手取りの収入が減少します。これがいわゆる「年収の壁」と言われるものです。
会社員や公務員(第2号被保険者)の配偶者の扶養となる、つまり「第3号被保険者」という立場になると、本来であれば支払うべき健康保険・年金の保険料が発生しません。
しかし、現在は厚生年金保険の被保険者数101人以上※の企業では、(1)週の所定労働時間が20時間以上あり、(2)所定内賃金が月額8.8万円以上、(3)学生でない、の3要件を満たすと、被保険者として自身が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する義務が生じます。
※2024年10月からは51人以上
月額8.8万円を年間収入に換算すると約106万円となることから、「106万円の壁」と言われるようになりました。
上記に該当しない場合(100人以下の事業所)は、年間収入が130万円以上になると、扶養から外れることに。これがいわゆる「130万円の壁」と言われています。
「扶養の範囲内で働きたい」と考え、就業調整をする人はかねてより多くいました。
2040年にかけて生産年齢人口が急減し、社会全体の労働力確保は大きな課題であり、人手不足への対応が急務として今般発表されたのが、「年収の壁・支援強化パッケージ」なのです。
パッケージでは、当面の対応として、2023年10月から、大きく3つの対応が示されました。
1.106万円の壁への対応
2.130万円の壁への対応
3.配偶者手当への対応
具体的な内容について確認していきましょう。
1.106万円の壁への対応
(1)キャリアアップ助成金のコース新設
短時間労働者が新たに被用者保険に加入する際、労働者の収入を増加させる取り組みを行った事業主に対して、複数年(最大3年)で計画的に取り組むケースを含め、労働者一人当たり最大50万円を行うこととしました。
これはキャリアアップ助成金において「社会保険適用時処遇改善コース」として新設されます。
助成対象となる労働者の収入を増加させる取り組みには、賃上げや所定労働時間の延長のほか、被用者保険の保険料負担に伴う労働者の手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含めることとされています。
2025年度末までに労働者に被用者保険の適用を行った事業主が対象です。
手当等支給メニュー(手当等により収入を増加させる場合)
労働時間延⾧メニュー(労働時間延⾧を組み合わせる場合)
<現行の短時間労働者労働時間延⾧コースの拡充>
(2)社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
短時間労働者への被用者保険の適用を促進する観点から、被用者保険が適用されていなかった労働者が新たに適用となった場合に、事業主が本人に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給することができるようになります。
※この手当などにより標準報酬月額・標準賞与額の一定割合を追加支給した場合、キャリアアップ助成金の対象となり得えます。
この「社会保険適用促進手当」は、給与・賞与とは別に支給するものとし、新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間、保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないこととされました。
※同一事業所内において同条件で働く他の労働者にも同水準の手当を特例的に支給する場合には、社会保険適用促進手当に準じるものとして、同様の取扱いとされます。
ただし、対象となるのは、標準報酬月額が10.4万円以下の方です。
※2023年度の厚生年金保険料率18.3%、健康保険料率(協会けんぽの全国平均)10.0%、介護保険料率1.82%の場合の本人負担分保険料相当額は以下が目安
「社会保険適用促進手当」のポイント
・給与/賞与とは別に支給する
・新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限(標準報酬月額10.4万円以下)
・最大2年間対象
・標準報酬月額・標準賞与額の算定に含めなくてよい
「社会保険適用促進手当」を支払っても社会保険料の対象にならない点は、労使双方にとってメリットがあるといえるでしょう。ただし、上限がある点には注意する必要があります。
2.130万円の壁への対応
被用者保険の被扶養者の認定に当たっては、認定対象者の年間収入が 130 万円未満であること等が要件とされています。
一時的に収入が増加し、直近の収入に基づく年収の見込みが130 万円以上となる場合においても、直ちに被扶養者認定を取り消すのではなく、総合的に将来収入の見込みを判断することとしています。
被扶養者認定においては、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等を確認することとしているところ、一時的な収入の増加がある場合には、これらに加えて、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、迅速な認定が可能となります。
あくまでも「一時的な事情」として認定を行うことから、同一の人について原則として連続2回までが上限とされます。
3.配偶者手当への対応(103万円の壁への対応)
企業がそれぞれ設定している「配偶者手当」等(名称は各社各様)は、所得税法上の扶養など収入要件を課しており、それが就業調整の要因となっているとも考えられています。
これはいわゆる103万円の壁への対応と言えます。
各企業における配偶者手当の見直しは、現在支給されている人にとっては不利益変更となりうるため、労働契約法や判例等に留意した対応が必要となります。
配偶者手当の見直しの必要性・メリット・手順等について、企業等への理解を深めることが必要です。
そこで今後、見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公表したり、各地域でセミナー等の開催を行ったりして周知を図るとしています。
そのほかの助成金
事業場内の最低賃金(事業場内で最も低い時間給)を一定額以上引き上げるとともに、生産性向上に資する設備投資等を行った中小企業・小規模事業者に対し、その設備投資等に要した費用の一部を助成する「業務改善助成金」について、活用を推進していくとしています。
まとめ
これから年末に向けて業務繁忙期を迎える事業所等も多いことから、年収の壁を気にせずに働けるよう、10月から実施されることが発表されました。
深刻な人手不足に悩まされる企業にとって、また、年末に向けて就業調整をしてきた働き手にとって、前進のきっかけになると考えられます。
「社会保険適用促進手当」を支給など、106万円の壁対策については、企業側においてもやるべきことが増えるため、導入に際しては注意が必要と言えるでしょう。
ただし、このパッケージについては、当面の対応策であり、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会では、その後の抜本的な制度見直しを検討しています。
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