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男女の働き方の違い~女性がパートタイムを選ぶ理由

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こんにちは、佐佐木 由美子です。

働き方について言及するとき、男女を一括りにして話すことが難しい、と感じることがしばしばあります。

その理由のひとつに、雇用形態の違いがあります。具体的には、正社員と正社員以外の雇用形態で働く人(以下、便宜上「非正規」と記載します)の割合に、男女で大きな違いがあるということです。

年齢からみた男女の正規・非正規の内訳

労働者派遣法が施行された1986年以降、女性を中心に徐々に非正規雇用の割合が増加。有配偶者女性を中心にパートタイムで働くケースが増加していきました。

2021年の非正規雇用労働者は、男性652万人(21.8%)、女性1,413万人(53.6%)と、女性の割合が高いことがわかります(内閣府「男女共同参画白書」令和4年版より)。

年齢階級別に正規・非正規の内訳をみると、その違いがより明確にわかるのではないでしょうか。図表1と2は、同白書の令和3年版から引用したものです。

図表1 各年齢階級における正規、非正規の内訳 男性 1988年~2020年 出所:内閣府「男女共同参画白書」令和3年版

男性の場合(図表1)、25歳以降の各階級について、正規が圧倒的に多いのがわかります。65歳以上になって初めて非正規が正規を上回ります。これは定年後の再雇用による影響が大きいでしょう。一般的な定年年齢である60歳をはさむ55~65歳においても、正規雇用が3分の2以上占めています。

図表2 各年齢階級における正規、非正規の内訳 女性 1988年~2020 出所:内閣府「男女共同参画白書」令和3年版

一方、女性の場合(図表2)、25~34歳までは正規雇用労働者が断然多いのですが、35~44歳で正規277万人、非正規273万人とほぼ同じ割合となり、45歳~54歳で正規284万人、非正規371万人と非正規が圧倒的に多くなります。

就業率は年々増えていますが、女性の場合は非正規雇用労働者が多く、年齢が高くなればなるほどその割合が高くなっていきます。

なぜ女性は非正規を選ぶのか

女性は40代半ばから非正規の割合が高まります。厳密には、ほぼ正規・非正規が同数となる35歳以降から増えますが、なぜこうした働き方を選択するのでしょうか。

一旦、結婚・育児等で正社員を辞めてしまうと、(特に離職期間が長い場合)なかなか正社員として再就職するのが難しい状況にあるのは事実です。しかし、それだけではありません。

厚生労働省「労働力調査(令和3年)平均」によると、非正規を選ぶ主な理由として一番多いのが、男女共通して「自分の都合のよい時間に働きたいから」というものでした。2位以下は、男女で違いが見られます。

男性は 2021 年平均で「自分の都合のよい時間に働きたいから」とした者が 187 万人(30.2%)と最も多く、次いで「正規の職員・従業員の仕事がないから」とした者が 105 万人(17.0%)でした。

一方、女性は「自分の都合のよい時間に働きたいから」とした者が 467 万人(34.0%)と最も多く、次いで「家計の補助・学費等を得たいから」とした人が310 万人(22.5%)でした。

図表3 非正規を選ぶ主な理由 出所:「労働力調査(令和3年)」より筆者作成 (注)「その他」の理由を除く順位

つまり、不本意ながらやむを得ず非正規を選んでいるわけではない、ということです。上位3つの理由をみても、家計の主体を担っていないことが伺えます。

これまでの日本型雇用システムでは、男性が長時間労働を前提とした正社員で終身雇用の傾向が強かったため、家庭生活を営むためには女性が家事・育児を担わざるを得ず、必然的に性別役割分担が出来上がってしまいました。

税・社会保障制度においても、それを是とした政策が取られてきたため、年齢が上がれば上がるほど、非正規の割合が高くなっています。

野村総合研究所(NRI)が配偶者のいる20~69歳のパートもしくはアルバイトとして働く女性(有配偶パート女性)を対象とした調査によると、6割以上が自身の年収額を一定に抑える就業調整をしていることが明かとなりました。

図4 有配偶パート女性における「就業調整」実施有無  出所:NRI「有配偶者パート女性における就労の実態と意向に関する調査」(2022年9月)

一定の金額を超えると、税金や社会保険料の負担が生じることから、「年収の壁」を意識して収入がその手前となるように調整している女性が多いことが伺えます。

ちなみに、同調査で、「年収の壁がなくなり、一定の年収額を超えて働いても手取りが減らなくなった場合、あなたは現在よりも年収が多くなるように働きたいですか」という質問に、そう思うという割合は78.9%(「とてもそう思う」36.8%と「まあそう思う」42.1%の合計)と回答がありました。

最低賃金は毎年のように上がっているため、時給ベースでは給与が上がっているものの、「年収の壁」があるために労働時間を減らしてまで年収を抑える動きがあるのです。

出所:野村総合研究所「有配偶パート女性における就労の実態と意向に関する調査」より【参考】資料

こうした調査結果を見ると、もったいないと感じてしまうのは私だけではないはずです。

働く意欲がある人を阻害しない、そうした制度に見直すべき時ではないでしょうか。


正社員ならば残業は当たり前、皆が出社して同じ場所で同じ時間に働く。そうした働き方がコロナ禍前はスタンダードでした。ですから、「自分の都合のよい時間に働きたい」と思えば、非正規で働く選択肢が自然だったのかもしれません。

コロナ禍以降は、少しずつその流れも変わりつつあります。働く時間や場所を自由に選びたい。そう考える人は、性別を問わず増えています。

さらにシニアが労働市場に増えれば、もっと緩やかに働きたいというニーズも高まっていくでしょう。

同一労働同一賃金が本当の意味で実現すれば、正規・非正規という雇用形態の違いを気にせずに働き方を選択できます。しかし、現実には雇用形態によって差が生じていることを否定できません。正規・非正規という区分で、働き手が分断されているように感じます。

本来、働き方は個人の価値観を前提に選択するものです。

ライフステージによっても、価値観は変化していくものでしょう。

個人が望む多様な働き方が、フェアに選択できる社会になることを願っています。

執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、文筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

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