あなたは「兼務役員」という言葉を聞いたことがありますか?
たとえば、企業の取締役の立場にありながら、同時に部長や支店長など従業員としても身分も兼ねるような人を指します。このように役員と従業員の両方の身分を有する人を、正確には「使用人兼務役員」と言います。
従業員から役員に就任する際、「労働者」ではなくなりますので、雇用保険の被保険者資格を喪失する手続きを取ります。
一方、従業員の身分を残したまま、役員も兼務するようなケースでは、所轄ハローワークで手続きをすることで、兼務役員として被保険者資格を保持することができます。
これを知らず、「被保険者資格を喪失してしまった」という話を聞いたことがあります。そうなると、例えばその方が退職するときや育児休業を取得する際、給付を受けられなくなってしまいます。
今は、働き方が多様化していて、兼務役員のような立場で仕事をすることも珍しくありません。
仮に、あなたが兼務役員として働くことを会社から打診されたときは、いざというときのために、兼務役員として雇用保険に加入する手続きをきちんと行ってもらえるよう相談しておきましょう。
ただし、すべての人が認められるわけではありません。兼務役員として雇用保険に加入するためのポイントを確認しておきましょう。
兼務役員として雇用保険に加入するには
会社の取締役や役員は、原則として雇用保険の被保険者となりません。
ただし、「使用人兼務役員」の場合、服務態様、賃金、報酬等からみて、労働者的性格の強いものであって、雇用関係があると認められる場合に限り、雇用保険に加入できます。
労働者性の実態を判断するにあたり、次の点がポイントとなります。
(1)業務執行権又は代表権を持たない役員や取締役であること
(2)役員報酬よりも従業員給与が多く支払われていること
(3)就業規則が適用されていること
その他、勤怠を管理されており、業務遂行における拘束性が認められることなど挙げられます。
給与明細(賃金台帳)上において、役員報酬と従業員給与をまとめて支払っているケースもあるようですが、それはNG。明確に役員報酬と給与を区分しているうえに、給与の割合が高くなければなりません。
ハローワークでの手続きにおいては、労働者としての実態を確認するために、「兼務役員雇用実態証明書」をはじめ、登記簿謄本や定款、賃金台帳、出勤簿、労働者名簿、その他関係書類を提出して判断を受ける必要があります。
なお、兼務役員の場合、雇用保険料は従業員給与部分に対して雇用保険料率を乗じて算出します。
2022年10月以降は、「一般の事業」の場合、労働者負担分は0.3%から0.5%に引き上げられているのでご注意ください。雇用保険料については、役員報酬も含めて計算しないように気をつけましょう。
失業給付や育児休業給付などを申請する際も、雇用関係に対して支払われる給与のみが対象となります。
まとめ
雇用保険に加入するメリットとしては、いざ働けなくなったときの給付金を申請できるということです。
一般に、役員に就任すると雇用保険の資格を喪失することになりますが、「兼務役員」については例外があります。あくまでも、労働者的正確が強い場合に限られますが、上述したポイントに留意し、該当する場合は、ぜひ兼務役員としての手続きをされることをおすすめします。
手続きが難しい場合は、所轄のハローワークに相談されるか専門家に依頼されてもよいでしょう。