こんにちは、佐佐木 由美子です。
東京都庭園美術館で開催中の「アール・デコの貴重書」展に行ってきました。
お目当ては、美術館本館として使用されている旧朝香宮邸自体を鑑賞すること。1933年に竣工した旧朝香宮邸の建築を存分に楽しめる、年に一度の建物公開展。アール・デコ様式を採り入れた邸宅をつぶさに見学できる貴重な機会です。
アール・デコとは、1910年代から30年代にかけて、フランスを中心にヨーロッパを席巻した工芸・建築・絵画・ファッションなどすべての分野に波及した装飾様式の総称。直線と立体の知的な構成と幾何学的模様の装飾を持つスタイルとして、確立されていきました。
1920年代に滞欧中、朝香宮夫妻は当時全盛期だったアール・デコの様式美に魅せらせ、自邸を建設するにあたって、主要な部屋の内装設計をフランスの室内装飾家アンリ・ラパンに依頼しました。宮内省内匠寮(宮内省管轄の建築から庭園、土木までの設計管理を司る部署)が設計・管理を行っています。
庭に面した大客室は、アンリ・ラパンによる内装設計で、天井にはガラス工芸家のルネ・ラリック製作のシャンデリアが一際目を引きます。
ルネ・ラリックをはじめとしたデザイナーの作品も、随所に堪能できます。ラリックの作品を鑑賞するのも楽しみのひとつでした。
大客室から隣接する大食堂へ。こちらのラパンの内装設計ですが、大きく円形を描いた窓から見える庭園の緑が美しく、開放的な雰囲気です。天井には、ラリックの照明器具がユニークです。
1階は大客室と大食堂がフランス色豊かで注目しがちですが、玄関近くにある小客室も素敵でした。本当に小さな部屋なのですが、壁には淡いグリーンを基調として描かれた樹木と水のある景色が描かれて、まるで森の中にいるような感覚に。これはラパンの作品ですが、水の表現がとてもリアルで、あたかも壁から水が流れ出ているように見えました。
素晴らしいのは、フランス直輸入のアール・デコ様式と、宮内省内匠寮による日本古来の高度な職人技が見事に融合されていることです。日仏の技師、デザイナー、職人らが創り上げた、唯一無二の芸術作品と言っても過言ではありません。
見事な調度品や照明器具も意匠をこらしたものばかりでした。例えば、ラジエーターレジスターにおける装飾金物をとっても、ひとつとして同じものはなく、細部にわたって手の込んだブロンズ製です。
2階にある書斎は、アンリ・ラパンの内装設計によるものですが、ドーム型の天井と間接照明が美しく、こんなところで思う存分本が読めたら……と、しばし妄想。
照明器具の数々も趣向が凝らされていました。1階はラリックの大型照明が見どころですが、2階の各部屋や廊下に配された照明も特徴的なものが多かったです。
本館から渡り廊下を経て新館へ。こちらで「アール・デコの貴重書」展が開催されています。1925年に開催されたアール・デコ博覧会に関連した文献資料等を見ることができます。
アール・デコ様式の建築、デザイン、工芸等に興味のある方にとって、年に一度の建物公開展は見どころが多いと言えるでしょう。
鑑賞後は、庭園を散策。緑の中にいると、落ち着きます。ちょっとした都会のオアシスですね。
余談ながら、ルネ・ラリックが好きな方には、箱根ラリック美術館もお勧めです。
アートを巡るエッセイ
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