こんにちは、佐佐木 由美子です。
あなたは最近、心の余裕を失っていませんか?
私たちは、口癖のように「忙しい」と呟き、やりたいことができない理由を「忙しいから」と言います。
何かとやるべきことの多い毎日。さらに様々なことを引き受け、何事も手を抜かずやろうとしたら、あっという間に時間が経ってしまうでしょう。
それに、私たちは毎日膨大な情報と接しています。
ひと昔前であれば、新聞や書籍を通してしか手に入らない情報もありました。
でも、今はスマホ一つで瞬時に入手できてしまう。
ただ、そうした情報には信憑性の低いフェイクニュースも混じっているため、どの情報が正しいのか取捨選択しなければなりません。
テクノロジーの進歩はありがたいことですが、一方で私たちの心を疲れさせてしまうことは往々にしてあります。
心を亡くすと書いて、「忙しい」と書きますが、言い得て妙とはこのことでしょう。
そして、目の前のことに追われているうちに、大切なことを見失い、いつしか自分自身をも見失ってしまう……これは、自覚のないままに進行してしまうことがあります。
心が枯渇してしまっては、何も楽しむことはできません。
楽しむどころか、生きている実感さえも得られなくなってしまいます。
こうなったら、危険信号。
そんなときは、思いきって休むことです。
休みのペースは、人それぞれ。もしかしたら、時間がかかることもあるかもしれません。
それでも、枯渇した心に、水や栄養を与え続けてあげることです。
心がちょっと疲れたときに、おすすめの絵本があります。
ノーベル文学賞を受賞したポーランド生まれのオルガ・トカルチュクが文を、同じくポーランド生まれで児童書のイラストレーターとして活躍するヨアンア・コンセホの絵で描かれた「迷子の魂」という絵本です。
「迷子の魂」オルガ・トカルチュク文/ヨアンナ・コンホセ絵/小椋彩訳(岩波書店)
作者のオルガ・トカルチュクは、ワルシャワ大学で心理学を専攻し、セラピストを経て作家となった人物。絵本という体裁を取っていますが、内容は哲学的な示唆に富んでいます。
あらすじは、忙しすぎて魂をなくしてしまった男が、ある老医師の助言にしたがい、「迷子の魂」をじっと待ち続ける、という物語。
結末は、ぜひ最後まで読んでみて、あなた自身が感じてみてください。
老医師のセリフにこのような言葉があります。
「わたしたちを上から見たら、忙しく走り回る人で世界はあふれかえっているでしょう。みな汗をかき、疲れてきっている。そしてかれらの魂は、いつも背後に置き去りにされて、迷子になっています。魂がじぶんの主に追いつけないのです。…」
「迷子の魂」(岩波書店)から一部抜粋
読み進んでいくと、それまでセピア色で描かれていたページに、途中から徐々に美しい色彩が加わっていきます。
それは、主人公が見える世界でもあるのですが、目が見開いていくようにどんどん作品へ引き込まれていきます。
この絵本は、毎年イタリアで開催されるボローニャ・ラガッツィ賞において2018年に優秀賞を受賞しました。
「もしかしたら、魂がちょっと迷子になっているかも……」と思われる方にお勧めする、大人向けの絵本です。