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「扶養の範囲」を超えて働く3つの意義

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時々「扶養の範囲内で働きたい」と相談を受けることがあります。

大抵は「子育てや家のことがあるから」という理由からですが、「扶養されていれば、夫の会社から手当がでるから」、あるいは「社会保険料を払うのがもったいない」など様々です。

もしかしたら、あなたも扶養の範囲内で働くかどうか迷っているでしょうか?

扶養に関して私が思うのは、目先のメリットにとらわれず、長期的な視点から働くことを考えて欲しいということ。

個々人の事情があって、働きたいけれどフルタイムで働くことが難しい、という場合はあるでしょう。

一方、働こうと思えば働ける(むしろ働きたい)けれど、扶養のために、敢えて働き方を調節する人もいます。

そこまでして扶養されることに価値にあるかどうか、じっくりと考えてみることをおすすめします。

扶養されるメリットと考えられていること

扶養には、社会保険(健康保険・年金)と税金面においてそれぞれの定義があります。ここでは主に、社会保険面からの扶養について考えてみます。

被保険者の同一世帯に属している場合、原則として対象者(扶養される人)の年間収入が130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合に被扶養者となります。

パートタイマーなど短時間で働く場合、以下の改正点にご留意ください。

会社員や公務員(国民年金第2号被保険者)の配偶者に扶養されることになれば、国民年金第3号被保険者になります。

そうなれば、本来は毎月支払うはずの国民年金保険料1万6610円(2021年度)と健康保険料は0円に抑えられます。そのうえ、国民年金については年金保険料を支払ったものとして、将来の年金額が計算されます。

夫(配偶者)の所得税に関しても、多少低く抑えられるメリットはあります。

また、会社から扶養手当が支給される場合もあります。金額は会社によるものの平均して月1万~2万円程度。決して大きな額とは言えませんが、夫の年収は確かに上がります。

国民年金や健康保険料を支払わなくて済む。さらに、夫の会社によっては、扶養手当ももらえる。そのうえ自分で(扶養範囲内の)給与を稼ぐこともできる。三拍子そろってお得だと感じるかもしれません。

それでも、働くことができるなら、扶養のことなど気にせず、どんどん働いた方がいいと私は思うのです。

なぜ扶養の範囲を超えて働くことがよいのか

1.被保険者になることで将来的な保障も手厚く

まず、あなた自身が雇用保険や社会保険(健康保険、厚生年金保険)の被保険者になれるということです。

注)加入基準は週の所定労働時間でみた場合、雇用保険が20時間以上、社会保険はおおむね30時間以上(条件によっては20時間以上)が基準。その他の要件あり。

保険料を天引きされることばかり考えていると、先々のメリットが見えてきません。

雇用保険の代表的な給付は、仕事を辞めるときの失業手当(正式には「基本手当」という)ですが、それ以外にも子育て中の心強い味方である育児休業給付や、家族の介護で仕事を休むときに申請できる介護休業給付などがあります。また、資格取得などを目指して学ぼうとするときに、教育訓練給付を受けることもできます(各種一定の要件あり)。

健康保険は、あなたが病気やケガをして働けないときの「傷病手当金」のほか、出産で仕事を休むときの「出産手当金」なども支給対象になります。この給付はいざというときに大変役立つものです。

厚生年金保険の被保険者になれば、将来もらえる老齢年金の金額が確実に増えます。

たとえば、年収200万円の場合、月々の厚生年金保険料は約1万5千円ですが、同じ年収のまま15年働くとしたら、増える年金額は年15万6千円になります。

ちなみに、この場合の健康保険料は約8300円(40歳以上は介護保険があるので約9700円:協会けんぽ東京支部の場合)となります。

年金は、原則65歳から一生涯もらえます。どれだけインパクトがあるかわかるのではないでしょうか?これは将来への投資ともいえます。

このように、あなたが被保険者になることで、支払うべき保険料は発生するものの、それ以上に広く、いざというときの保障を担保することができるのです。

2.世帯年収が上がる

2つ目に、あなたの年収が上がるとともに、夫婦で働く場合はトータルの世帯年収も上がるということ。

フルタイムで週40時間働くとすれば、仮に最低賃金で働いたとしても、東京都の場合は年収200万円近くになります。

労働時間が増えれば、給与が増える。これは当然のことですが、注目したいのは時給ベースの単価です。

実際、扶養の範囲に抑えるために、会社も時給を上げることをためらうケースがあります。

それで労働時間が減ってしまえば、他に仕事をしてくれる人を探さなければならず、会社にとっては人を採用するコストや教育コストなどもかかり、これも頭を悩ませる問題と言えます。

しかし、今後は企業側も都合よく時給を低く維持することはできません。

2021年4月から、同一労働同一賃金を掲げるパートタイム・有期雇用労働法が中小企業まで全面施行されました。

これによって、企業側もパートタイマーやアルバイト、契約社員の給与や待遇の見直しを進めていく必要が生じます。

時給単価が上がって、嫌な気分になる人はいないでしょう。これまでもらえなかったボーナスが支給される人も出てくるはずです。

それでも、「扶養の範囲に年収を抑えるために、これ以上はいりません」というのは、ナンセンスな話ではないでしょうか。

3.スキルや経験が高まる

3つ目に、働く時間が増えることで、その仕事におけるあなた自身のスキルや経験も高まるということです。

任される仕事の範囲も広がっていくかもしれませんし、それが将来のキャリアにも繋がっていく可能性が高まります。

たとえば、週15時間しか働けないAさんと、週30時間働けるBさんがいたとしましょう。

スタート時には同程度の能力であったとしても、働く時間はBさんの方が2倍も長いので、半年後の習熟度を見たときに確実にその差は開いているでしょう。

仕事を依頼する立場の人も、一緒に仕事をする人も、あまりにも労働時間が短かかったり、シフトの見通しなどが立たないとやりにくいはず。

短時間で働く人が大勢いる職場では、仕事がうまく流れるように仕組み化されています。

個人で完結できる業務もあるかもしれません。ただ、そうでない場合、ある程度の時間軸で業務の流れが把握できた方が、仕事を進めやすい一面があります。

それは職場での信頼感にもつながっていくものでしょう。


以上のように、扶養の範囲を突き抜けて働くことで、得られるメリットもあります。

扶養を基準に仕事を選ぼうとしているなら、なぜそうするのか、一度その理由を考えてみてください。

「ワンオペ育児が大変で、フルタイムで働くのは厳しすぎる」という人もいるでしょう。無理は禁物です。人それぞれ、置かれている状況は違いますので、自分なりの最適解を考えてみてください。

その答えが今の自分にとってベストな選択だと感じられるならいいのですが、本当は働きたいと思っているのに、扶養に入るために働き方を制限しているのであれば、ちょっともったいない話ではないでしょうか。

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執筆者プロフィール
佐佐木 由美子

社会保険労務士、文筆家、MBA。グレース・パートナーズ株式会社代表。働き方、キャリア&マネー、社会保障等をテーマに経済メディアや専門誌など多数寄稿。

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