こんにちは、佐佐木 由美子です。
職業人生を会社員からスタートする人は多いことでしょう。
会社に入れば、社会保険や税金など面倒な手続きは、すべて会社が対応してくれます。そのため、特段の知識がなくともやり過ごせてしまいます。
しかし、多様な働き方の選択肢が増えていくと、会社員からフリーランスへ、あるいは起業して会社の役員へといった具合に、ワークスタイルの変化が一生のうちに何度も訪れる可能性が出てきます。
このとき気を付けておきたいのが、社会保険の違いです。
たとえば、いざ独立してフリーランスになるような場合、会社任せにしていた状態から、自分で手続きをしなければなりません。
そこで初めて、社会保険や税金面について考える、という人もいるでしょう。
個人的には、義務教育の段階から、日本の社会保障制度や働き方に関わる法律などについて、学びの機会を設けた方がいいと考えています。
かつてのように、終身雇用の時代であれば、何とかなったかもしれません。
しかし、雇用の流動化が進む今の時代において、無防備なまま社会に出ることはリスクにもなり得ます。
社会保険完備の意味とは
求人情報などを見ていると、「社会保険完備」と書かれているのをよく見ませんか?
会社員の場合、一般には次の各保険に加入していることを言います。
健康保険
・業務外で病気やけがをしたとき、休業、出産、死亡といった事態に備える医療保険
・企業の保険者には「健康保険組合」と「全国健康保険協会(協会けんぽ)」の2種類がある
・保険料は会社側と折半
厚生年金保険
・原則65歳以上、一定要件にて支給される「老齢年金」のほか「障害年金」や「遺族年金」がある
・保険料は会社側と折半
労災保険
・仕事中や通勤途上の事故で病気やケガをした場合に必要な保障が受けられる
・保険料は全額会社負担
雇用保険
・失業した場合に失業手当が支給され、再就職の支援を受けられる
・育児休業、介護休業などで働けないときや教育を受けるための給付が受けられる
・保険料は会社が半分以上を負担
このほかに、企業が独自に年金を支給する企業年金に加入している場合もあります。
各保険料の半額以上は会社が負担してくれます。本人負担分は、給与から天引きされているので、自分がこうした保険に入っている、という意識もあまりないかもしれません。
しかし、いざというときに役立つものです。
私は社労士という仕事柄、こうした保険給付の手続きなどにも携わっていますが、各種の制度に助けられる人たちを数多く見てきました。
自分が労働者として会社に守られていたときには、そのありがたさに気づかなかったものです。
社会保険の違いを一覧でチェック
会社員の社会保険を確認したところで、今度は会社役員やフリーランスとは、どのような違いがあるのか見ていきましょう。
会社員とフリーランスの社会保険の違いについては、時々見かけますが、会社役員との違いを比較するものはあまり見かけないのではないでしょうか。
会社役員で注意したいのは、労働者ではないため、労災保険と雇用保険の適用が受けられないということです。また、常勤の取締役等は健康保険・厚生年金保険の対象にはなりますが、労働者ではないため、育児休業の適用はありません。
わかりやすくするために、以下の表にまとめてみました。
ちなみに、会社員は無期労働契約・フルタイム、会社役員は常勤の取締役で、社会保険の対象となっているケースを想定しています。下記の表では簡易的にカテゴライズしていますが、名称にかかわらず個人の働き方で変わる場合もありますのでご留意ください。また、副業・兼業などパラレルに働く人については、個人ごとの条件によりますので、個別に検討していく必要があるでしょう。
これを見ると、フリーランスの人の保障が手薄いと感じるかもしれません。
現行の社会保険制度を抜本的に見直すのは、財源の問題が絡んで容易ではありません。しかし、柔軟で多様な働き方を国が推進するのであれば、この課題についてもっと検討していくべきでしょう。
EU(欧州連合)は2019年11月、雇用されて働く人にも独立自営の人にも社会的な保護を用意するよう加盟諸国に求める勧告を採択しました。
この点、労災保険の分野では見直しが進んでいます。
2021年4月からは芸能関係やアニメーション制作作業従事者へ、2021年9月からは自転車を使用して貨物運送事業を行う者やITフリーランスへ、特別加入制度の対象が広がりました。
特別加入とは、労働者以外のうち、業務の実態や災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいとみなされる人に、一定の要件のもとで労災保険に特別に加入することを認める制度です。
労災保険の保険料は100%事業主負担となりますが、特別加入については、個人で全額を負担することとなり、事業の内容によって保険料率が異なります。
働き方によって社会保険は異なる
まずは、働き方によって社会保障制度にどのような違いがあるのかを知ることです。気になる点は、さらに詳しく調べてみましょう。
そして、こうした現状と違いを踏まえたうえで、自分自身で対策を立てていけばよいのです。そうすれば、いたずらに不安がる必要もありません。
働き方と社会保障の問題は密接に関わっています。主体的に働き方を見直すときは、こうした側面も視野に入れて考えることをおすすめします。